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ちけむりてんめいじん

血煙天明陣

国枝 史郎

線上閱讀国枝 史郎《血煙天明陣(ちけむりてんめいじん)》,假名注音日語閱讀。JLPT N2,點詞查義。

N2 · 挑戰 · 新字新假名 · 191,184 字 · 379 頁

青空文庫

屋敷が全然消えてしまい、広大な森が亭々と、空を摩しているばかりだからである。

森の中には人声がしていた。

今夜の饗宴の準備のために、働いている人々の声なのであろう。

透かして見たが森の中は暗く、建物の姿も見えなければ、人の姿も見えなかった。

「よし、それでは引っ返そう」

こう冬次郎がいったので、五人のものは歩を返した。

半町あまり歩いて来て、一同は振り返って眺めて見た。

森の梢を抽んでて、屋敷の屋根が見えていた。

数町歩いてまた振り返って見た。

巍々堂々たる大屋敷が、和漢洋の調和をととのえて、浮かぶように聳えていた。

「不思議だな」

「不思議にござります」

さらにしばらく歩いた時、冬次郎は熊太郎へ何か囁き、自身は外伝や勘助とともに、草を敷いて地へ坐った。

「範之丞殿、こちらへおいで」

こういったのは熊太郎で、横へ反れてズンズン歩いた。

「まずこの辺で一休み」

いって熊太郎は腰を下ろした。

で、範之丞も腰を下ろした。

晴れた、風のない、好天気で、陽の中に羽虫が飛んでいた。丘、疎林、ところどころに耕地――そんなものが見えていた。

すぐの背後には丘があり、遙かの向こうには逃げ水屋敷が、謎めいた姿で聳えている。