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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
Read 雪之丞変化 (ゆきのじょうへんげ) by 三上 於菟吉 (みかみおときち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 344,083 characters · 673 screens
「なあに、また折があらあな。さっさと行きねえ――」
お初は、相手が、ためらうのを、追っ払うように、
「さっさと、行きねえと言ったら――そら、向うから、人影が差しているじゃあねえか――」
と、強く言う。
「じゃあ、姐御、上首尾に――」
「おお、土産はたんと忘れねえよ」
ずんぐり男は、板囲い沿いに、黒いむく犬のように、どこへか、消える。
自ら、お初と名乗る、女賊――それを見送ると、大胆に、物影をはなれて、町角の常夜灯の光りが、おぼろに差している巷路に、平然と姿を現した。
見よ! そのすんなりとした、世にも小意気な歩みぶり――水いろ縮緬のお高祖頭巾、滝縞の小袖の裾も長目に、黒繻子と紫鹿の子の昼夜帯を引ッかけにして、町家の伊達女房の、夜歩きとしか、どこから見ても見えないのだ。
顔容は夜目、ことには、頭巾眼深――ちょいとハッキリしないのだが、この艶姿から割り出すと、さもあでやかだろうとしか考えられない。
現に、今、通りすがった、二人づれの、職人らしいのが、振り返って、うしろ影をつくづく見て、
「へッ、たまらねえな――どこのかみさんだろう?」
「畜生! 亭主野郎、どんな月日の下に生れやがったんだ!」