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ゆきのじょうへんげ
雪之丞変化
三上 於菟吉
Read 雪之丞変化 (ゆきのじょうへんげ) by 三上 於菟吉 (みかみおときち) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 344,083 characters · 673 screens
二七
――たった一度でいい――と、誓ったあたしだ。さきにも大望があるというからには、しつッこく、二度、三度、と又の逢瀬はねだれない――せめて、今夜一晩は、明けるまで、夜っぴて、思いのたけをいってやらなくっては――
雪之丞の、あの凛として、白梅のような美しい顔が、目にうかんで、彼女の魂を、鋭く、しかし、甘ったるく、噛み破ろうとするのであった。
――たった一晩、――あたしはそれを一生ほどに思っているのだよ、太夫――
二七
ひたむきの執念に、燃え焦れたお初、かごに揺られながら、もう広小路を越して、いよいよ湯島の切りどおし、それも、半ばは上って来たと思っていると、ふと足音がだしぬけに近づいて、
「おい、そのかご、待って貰おう」
と、低い脅かすような声がいって、棒鼻を抑えた容子――
それで、彼女の、甘ったるく、遣る瀬ない、恋路の夢が、突如として、中断されてしまった。
はッと、さすがに、びっくりすると同時に、手が、帯の間の匕首にかかって、
――畜生! 岡ッ引きか?
万一、このかごの主を、軽業お初と知って、押えにかかったのなら、遮二無二、切ッ払って逃げる外はない――ここで、縄目にかかれば、どうせ、二度と、娑婆の、明るい日の目を見られぬからだだ――恋も、色も、それどころか、明日のいのちが、それっきりだ。