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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
六
枚方の船持とかいうこの船頭の親なども馳けつけて来て、共に息子の無礼を詫びた。一見、勝負は呆ッ気なくついたように見えるものの、弥五郎も心のうちでは、この船頭の力量と剛気には感心していたので、
「惜しいものだ」
と、呟いてゆるした。
(さては俺に見所があるな)
と思ったその船頭は、親を説いて、弥五郎の弟子にしてくれとせがんだ。その頃、弥五郎一刀斎も壮気旺な時代ではあり、弟子のひとりも連れ歩きたい気もあったので、恰好な門人と、その乞いをゆるした。これが今の弟子、善鬼なのである。
「――こういうわけで、俺は弟子にはいったが、それ以来、ずいぶん諸国の行く先々で、頼まれることがあっても、断じて、弟子はもうとらないと仰っしゃっている。折角だが、おめえもその組だ。断られるに極っている。いや、そんなことを取次ぐと、第一、俺が、怒られる。帰りねえ。むだな夜露に濡れていねえで」
善鬼は、喋舌るだけ喋舌ると、すたすたと、土間のうちへかくれ、隠しておいた寝酒をさげて、自分の寝屋へもぐりこんでしまった。
四
典膳は寝られなかった。悄然と、木賃へ帰ってから、ひとり薄いふとんの中で、これまでの修行と、現在の自分の力とを、反省し、また反復して、痛切に省みてみた。