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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
七
右の枝を伐られ、左の力をがれても、樹は傷む顔も見せない。老いのつかれも口に出さない。きっと来る春を信じて大地に立ち聳えている。
だが――さすがに。
二十余年を積んで良人に恥じぬ若人と育てあげた正行と正時を、還らぬ戦場へ送ってからは、正儀には、母の年輪が改めてかぞえられた。傷しと哭かぬ樹のすがたに、自分のほうが泣けて来てたまらなかった。
そんな一日のうちの一刻もあったが、蔀を出て、東条の山から、雪もよいの河内方面の空を見やれば、矢たけびか、枯野の風か、びゅーっ、びゅーっと、きのうもきょうも、天地は灰色の晦冥につつまれていた。
「どうあろう? 戦の様子は」
「兄たちは」――と思いはすぐ遠く駆ける。
留守寨の兵たちも、総門の方に、馬のいななくのを聞けば、
「すわ。お使いぞ」
と、刻々、待ちうけている前線からの伝令と見て、われがちに駈け出した。
七
誰の眼も、眸の先に光りものがちらついて、気が逆上ったように、血走っていた。
夜来からの城寨の混雑は、六日の明け方までつづいていた。
味方の敗戦、それから四条畷の全滅、一族数々の人の名が、討死討死と、次々にここへ聞えて来たのである。