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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
二
……景季、おぬしら、臣下の者にも分ろうが」
義経は、彼の姿を見ると、云わずにいられなかった。情熱に生き情熱に戦って来た彼は今――平家の旧勢力を一掃して、源氏という、また、鎌倉幕府という新しい組織の段階に入ってくると、もうその役割のすんだ無用の破壊者の如く扱われて、ことごとに、兄頼朝からは疎んぜられ、幕府の一部からは曲解をうけた。
――心外な!
彼はまたそれを、情熱の焔につつんで深刻に悩むのだった。武人の働きや武略を必要とした世情は一転して――新しい段階では、政略家が舞台にのぼり、政治的な整理や工作が、何もかも無視して働いているのだ――というふうに冷然と見ていることができなかった。
また、幕府を繞る北条閥や大江広元などの、いわゆる政治家肌な人たちの中では、義経が、戦時同様な威力をもって、京都守護の任にあることは、何かにつけ都合が悪かった。殊に、後白河法皇の御信任は日に厚く、九条兼実なども、義経を無二の者としている傾きがある。――頼朝の心もまた、それには穏やかであり得なかった。
「いや、お暑い折を、押してお目通りを願い、恐縮でした。幕府の使いとしてなれば、御ゆるしにあずかりたい」