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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
四
頼山陽の文名が一世を圧した時、世人はまた、山陽の詩、山陽の文業をさして、
「あれは天才の筆だ」
と云った。
山陽はそれを聞いて呟いたそうである。
「わしを天才などと観る者は、わしの知己じゃない」――と。
人の目になど見えない所に、そう云う人の刻苦と精進はあるのだったが、深夜の寒燈の下に、血を咯きながら修史何十年の悲壮な努力の姿は、誰も山陽に見ていなかったのである。
静山、山岡紀一郎の上達にも、誰も知らぬ苦行があった。毎年の厳寒には、深夜、凍天をいただき氷地を踏み、井戸端へ出て、荒繩で腹を巻きしめ、氷を砕いた水を頭からかぶって、丑満から独り道場入りを始め、夜の明けるまで、重さ十五斤の槍を揮って突の猛練習をなし、一夜一千回から二千回に及び、それを三十夜も続けたという。
一家をなして、当代一流といわれてからでも、昼は何百の門人に当り、夜は必ずその「突」の練習を怠らなかった。少しくらいな風邪や病気などは、三千回も「突」をやれば癒ると自分で云っていた。宵の灯ともし頃から翌朝の禽の音の聞えるまで、二万何千回という「突」を数えたことすらあった。
「近代めずらしい武道家」