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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
九
いつも於霜の才覚で、被衣して召使の女に偽装したり、門番の合鍵を手に入れたりして礼拝堂に通った。
そして、或る時、
「もう参れるかどうかも知れません。どうぞわたくしに、洗礼をお授けくださいませ」
とまで、信仰の一途を訴えたが、師父のセスベデスは、受洗してもしないでも、信仰さえ懸命につらぬけば――と、肯き入れてくれなかった。
師父は、彼女を、秀吉の寵室にいる女性かと疑ったのである。それほど、彼女は異国人の眼にも高貴に映っていたし、また、絶対に名を隠していたからだった。
それが、いつか良人の忠興の耳に知れた。彼は、新宗教を邪視していたひとりなので、捨児長屋と同じように、
「やめろ。改宗はならぬ」
と、自分の嫌いを一点張りに云って迫った。
「ほかのことなら、どのようなことでも御意に従いますが、こればかりは、わたくしの心の柱と打ち立てたものですから」
と、夫人は、いつに似げなく鞏固に、忠興の不機嫌が納まるまで、手をつかえたきり哀願をやめなかった。
それでも、忠興が、唇をむすんだきり「うん」と云わないので、彼女はこう云った。
「――お忘れ遊ばしましたか。あなた様が二十歳、わたくしも二十歳の六月。