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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
日本名婦伝
一
「そなたにも、また家臣たちにも、そう心配かけてはすむまい。……今は何事も忍の一字が護符よ。この九郎さえ忍びきればお許らの心も休まろう。――通せ、ここでよい。義経が仮病でないことも、景季の眼に見せてくりょう」
二
宇治川の合戦に、名馬摺墨に乗って聞えを取り、その後、頼朝にもお覚えのよい梶原景季であった。
その頃は、義経の幕下であったが、今日は、鎌倉殿の権力を、背に負っている使者で来たのである。
「異な臭い……。これはまた、何のけむりか」
景季は、そこへ坐るなり、天井を見まわして、訊ねた。義経は、脇息に倚って、苦笑しながら、灸をやいていたところ故と答えると、
「そうそう、先頃から、何度訪ね申しても、御病中とのみで、追い返されたが――時に、御容態はいかがでござりますな」
「景季。おん身は、義経が会わぬのは、仮病ならんと、家人へ云われたそうなが、篤と、この灸の痕を見られよ」
と、襟をはだけて示し、
「兄頼朝へ、其方どものそうした邪推や偏見を、そのまま伝えてくるるなよ、先にも義経は、兄上のおひがみや誤解を解こうものと、病躯を押して下ったが、腰越にて阻められ、遂に、鎌倉へ入るも許させ給わず、空しく京へ立ち戻って来たが……骨肉の兄と弟とが、かく心にもなく隔てられ、浅ましい相剋の火を散らすことよと、世間の眼にも見らるる辛さ。