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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

六

躍起になって、探しぬいたが、手懸りもない。

その前後。北条時政の手勢は、何事か、確証をつかんだものらしく、雪ふる中を、吉野の峰へ馳け上って、何の前触れもせず、南院藤室の僧房を襲った。

「九郎判官が、これに潜んでおろう」

「存ぜぬ」

白眉の僧が、応答している間に、彼方の蔵王堂の方で、

「いたっ」

という兵の声がした。

僧の中で、密告した者がいたとみえる。どやどやとそこへ押入った武者輩の中に、その僧も立ち交じっていた。

「やっ……。女と老母のみではないか」

「これは、判官どのの愛妾静どのと、その母御の禅師です」

兵を導き入れた僧は云った。

「あ。……静か」

白拍子の頃から麗名は高い。舞の上手、またなき容色の持主と、誰も聞いている。わけて、九郎判官が、天下に身を容れる尺地もなくなった後も、労苦を共にして、連れ歩いている麗人とは、いったいどんな女性かと、武者輩は、眼を研ぎたてて、まわりに立った。

母子、ひしと抱き合っているので、一つの大きな繭のように見えた。静のふところに顫いているのは老母だった。静は、まわりの刀や槍を、黒い瞳で、まろまろと見つめながら、母の体のうえに蔽いかぶさっていた。