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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
二
二
石垣は血にそまった。
その血が黒くならないうちに、次の敵が、また石垣につかまって攀じ登ってくる。
岩石、材木、沸湯――糞泥までを、執念ぶかいその敵に浴びせかけた。
「多聞院日記」の記事によれば、この時の激戦は、三日に亙るとあるが、「柳生家家譜」には、七日を過とある――
何にしても、相互、夥しい犠牲を出して、揉み戦った酸鼻は分る。
筒井勢は、小柳生の在家散郷へ火をつけたから、その煙は、天を焦がし、畑はふみ荒され、百姓のすがたはおろか、家畜の影も絶えてしまった。
糧食の道、水の手の落口も、断たれてしまった。城中の兵は、眼に領内の焦土をながめ、身のまわりには、飢渇か死の影しか見られなかった。
が、なおも城は、頑強に落ちなかったので、筒井順昭は、自身伊賀を発して、忍辱山に陣を取り、
「これしきの小城に、七日もかかって、なお落ちぬと四隣に聞えては、筒井衆の名折れぞ」
と、激励した。
順昭は、後の筒井順慶の父にあたる人である。順慶とちがって、英武な名将と知られていた。――その忍辱山の陣所へ、柳生方の捕虜が一名、高手小手に縛られて来た。
その晩も、諸所の放火、陣地陣地の篝などで、夏の夜空は、真っ赤に煙って、地の草露に虫の音もなかった。