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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
よく留守を訪うてくれる。またいろいろな消息を知らせてもくれた。きょうも袂から一通の書面を出して、
「ただ今、赤穂からの飛脚がついた。十内どのの御消息じゃ、読むも涙……。急いでお目にかけに参った」
と、それを丹女にすぐ見せた。
――何ものこらず、具足一領、鎗一本、白帷子ひとつ、挾箱に入れて下り申し候。
老母、妻にも、こころざしは申し聞けず、様子にて、覚り候も不知、いよいよ相果て候わば、母妻の儀、御芳志たのみ奉り候。たのみ上げ候上は、虫同然の小家の者共、お恨み申しあぐ可き訳も無之候。
且又、此方共は、籠城して、途を開くべき為には無之、ただ各※(二の字点、1-2-22)城と共に自滅の覚悟にて候。妻より人遣わし候わば、御大儀ながら御越し候て、この書中の通りを、よき程に読んでお聞かせ下さるべく、女子でも、さのみ騒ぐまじく覚え有之候あいだ、仰せ聞け下さるべく、猶々、一分の事にいたりては、一家の名を下すようの事は之あるまじく候間、おこころ易かるべく候、以上。(略意)
「十兵衛様。おねがいがござりまする」
その時、うしろの襖をあけて、両手をつかえた者がある。見ると、養子の幸右衛門であった。