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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

七

この容体は陣痛じゃ」

「えっ。陣痛?」

「ひどく冷えこんだため、早めた容子はあるが、はや八月は越えている」

「さては、妊娠していたのか」

清経は、息を嚥んで、先頃から自分のした折檻が、ひそかに今は自分を責めた。

何しても、騒ぎとなった。しかし、案外に産室へ入ってからは軽くすんだ。産れた子は、男であった。初産だし早目でもあったせいか、ふつうの嬰児より小さかった。

「お母様、見てください。似ておいで遊ばすことを……。このお眼、このお唇」

彼女はこの邸が、獄舎であるのも忘れて、掻抱いては、欣んだ。――お見せしたい、一目でも、かの君にと。

木々の芽もふく春に向いて、嬰児の手足は、日ごとにまろくなって行った。父の血をうけて、この子も意志強い容貌していた。

「ああ、お目にかけたい。それにしても、わが夫は何処の野路を……?」

思うにつけ、胸が傷む。すると怖ろしいほどすぐ乳が止るのである。嬰児は泣く。――せめてこの啼き声なと、良人の耳に届くすべもないかと、また、涙に溺れてしまう。

「ちッ……。うるさい餓鬼だ」

昼夜、室の外に、番をしている詰侍が、時々、聞えよがしに、舌打ち鳴らした。