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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
「三成ともあろうお人が、さても愚かなすすめを」
と、迦羅奢夫人は、於霜から使者の見えたのを聞いて、微笑んだ。
於霜は、夫人の落着いた面を見まもりながら、
「では、大坂城へは、おはいりになられませぬか」
と訊ねた。
「そなたまでが、愚かなことを問うものよ。日頃、わが良人には、三成とは、お心も合わず、また、その良人やわが子は今、三成の敵とする徳川殿に従いて、上杉攻めの軍旅におわすものを、何でこの身が、大坂城へ質として足を運ぼうぞ。――三成の使者は、生命惜しくばと威嚇しておるであろうが」
彼女の想像どおり、使者は、口を極めて、夫人を邸の外へ拉して行こうと努めた。
しかし彼女は、きき入れなかった。その第一の交渉が来たのは、七月十二日のことで、それから十三日、十四日、十五日、十六日と、連日、いろいろな手段で夫人を説伏に来たが、迦羅奢の答えには、すこしも変化がなかった。
「さらば、武力にかけて、お連れ申すぞ」
と、交渉の手断れとなったのは、十六日の夕方に迫って――これが最後と云って来た使者が、門を出ると、途端であった。
三成の軍は、もう鉄桶の如く、細川家をとり巻いて、鬨の声をあげ初めた。