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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

三

「坐れっ」

「それへ直れっ。――直らんかっ」

繩付の弱腰を蹴って、一群の将士が、床几の前へ突きのめした捕虜を一目見ると、筒井順昭は、

「ああ待て。手荒にするな」

と、思わず眉をひそめずにいられなかった。

三

「女か。病人か」

順昭は、まず訊ねた。

見るからに弱々しい一名の敵を、大勢して、さも手柄顔に生擒って来た味方の将士も、むしろ不快とするような順昭の語気だった。

「わしは、女ではないっ。病人などでもないっ。――柳生家厳の嫡男、新介宗厳なのだ。はや首を打てっ。首を打て!」

順昭の声に応じて絶叫したのは、彼の部下ではなく、彼の前にひき据えられている捕虜だったのである。

「何っ。柳生家の総領じゃと」

順昭が、思わず眼をみはると、籠手の傷口を縛りながら、繩付のうしろに付いて控えていた朝山氏堯という赭顔の勇将が、頭を下げて答え直した。

「幾度、水の手の樋を断ち切りましても、いつの間にか、城内へ水の通っている容子なので、それがしの手勢を伏せておきますと、夜ごと、この若武者が、決死の一隊をひきつれて、搦手から裏山へ攀じ、貯水池の樋をかけ直し、水路をひいて城内へ走りこむのを見届けました。