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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

と、たずねた。

「天下を治むるの兵法をもって」

と、宗矩が答えると、石舟斎は満足して、かすかにうなずきながら、

「――庶人これを学べばすなわち身を修め、君子これを学べば学識を修め、王侯これを学べばすなわち国を治む。――庶人より王侯君子にいたるまで、みなその道はひとつ」

と、大声で云って、しずかに眼をふさぎ、ややあってから、

「そちには何の憂いもない。これで安心いたした」

と、云った。

きょうか明日かとも見える容態になっても、石舟斎は決して厠へ通うのに、ひとの手を借らなかった。手沢のかかった細竹の杖をついて、病室の濡縁から後架へゆくのを常としていた。

折ふし十二月の極寒ではあるし、伊賀境の山々から、粉雪は舞って、掃いても掃いても縁にたまった。板縁は鏡のように凍るので、誰もよく辷っては怪我をした。周囲の者は、石舟斎の足もとをそこに見るたびに胆を冷やしたが、石舟斎は決して辷らなかった。

「あの御病体でありながら、何として? ……」

と、人々がいぶかるのを耳に挾むと、石舟斎は枯葉のような頬にすこし笑みをたたえて云った。

「氷の縁をあるいて、後架へ通ううちに、わしは工夫をこらし、浮身の法というのを発明した。