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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
真田弾正同じく昌幸、円座を作って居流れた様は、堂々として由々しかった。
名に負う永禄元年と云えば、上杉謙信を相手とし、信州更級川中島で三回寄せ合った合戦の中、二回目を終えた翌年のことで武田家にとっては栄華の絶頂、士気の盛んな時代であった。
「庄三郎」
と、信玄は、深味のある声でふと呼んだ。
「はっ」と云って手を仕える。
「そなたの父を思い出すぞよ」太い眉を動かしたが、「庄八郎は勇士であったぞ。また思料にも富んでいた。思案に余った折々は、俺はいつも思い出すぞよ」
「有難いお言葉に存じます」
「そなたも父に肖らずばなるまい」
「努めてはおりますなれど……」
「不肖の子と云われるなよ」
「恐れ入ってございます」
「浮世の事、一切力だ! 力を養わずばなるまいぞ」
「お言葉有難く存じます」
「よいよい」
と云って信玄は、素絹の袖を左右に張ると、トンと軍扇を膝に突いた。
再び軍議に入ったのである。
衆人の前で父の事をこうあからさまに褒められて、庄三郎は嬉しくもありまた晴れがましくも思われたかポッと顔を上気させ、恍惚とした眼使いで地図の面を無心に見た。と、その地図の真中へ、ポタリ、ポタリ、ポタリ、ポタリと、上の方から血が滴って来た。