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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
六
一隊の後を追っかけた。
裾野には人影がなくなった。
一匹の鼠が走って来た。栗色の鼬が飛び出した。二匹は劇しく格闘した。鼬は頸を噛み切られた。赤黒い血が流れ出た。それが春陽に蒼光った。
※(「鼬」の「由」に代えて「吾」、第4水準2-94-68)鼠は餌物を貪り食った。ピンと上げた太い尻尾が、銀鼠色に輝いた。骨を噛み砕く音がした。
六
月子は面を彫んでいた。
甚太郎は帰って来なかった。
サクサク、サクサクと、鑿が鳴った。木屑が蛾のように四辺へ散った。
「坊やは帰って来ないそうな」
手を止めて呟いた。寂しそうに眉を顰めた。
「迷児になったんじゃああるまいか?」
これが彼女には心配であった。
また面を彫み出した。
「駄々っ児だけれど、可愛い児だよ。駄々っ児だから可愛いのかも知れない」
微笑したいような気持ちがした。
「だが」と彼女は考え出した。「いつぞやあの子の云ったように、定まった悪人というようなものは、ほんとにこの世にないのかしら? もし本当にないのなら、妾はどうしたらいいだろう?」
この事を考えると不安であった。
「造顔術を施すのは、決して妾の希望ではない。術を施している中に、極重悪人の顔を持った、男か女かに会いたいのが、妾の本当の希望なのだが、悪人がこの世にないとすれば、そういう顔の持ち主とは、永久会うことは出来ない