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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
泡沫が船底に仆れている庄三郎の体へ降りかかった。庄三郎の全身は、泡沫のために濡れしおたれ、顔から滴が流れ落ちた。
渦巻く波の圏内から、船が遠く遁がれた時、滝の音は遠退いた。
やや水勢は速まった。
船は前後に躍りながら、先へ先へと進んで行った。
滝の音が全く消え、水の流れが和んだ時、ふたたび静寂が返って来た。
蒼い光を押し分けながら、船はその旅をつづけて行った。
こうして水路は徐々に広まり、やがて水路は大河となった。そうして瀬の音が聞こえるようになった。河幅が広まるに従って、河底が浅くなったらしい。
泡沫を冠っても庄三郎は、理性を恢復しなかった。死の道を辿っていた。その顔色はいよいよ蒼褪め、唇にはほとんど血の気がなかった。一粒の滴が左の眼の、眼尻の下に止まっていたが、それが涙を想わせた。
古風な形の独木船は、こうして徐々に流れて行った。
と、一点の灯火が、右手の岸から見えて来た。人工の灯火だということは、火の色の赤いので察せられた。空色の面紗でも張り廻わしたように、蒼々と拡がっている夜光虫の光へ、一所クッキリと斑点を附け、桃色の灯火が燃えているのであった。