Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
第十四回
一
二つの影が前後して、長い廊下を伝って行った。
その人影が消えた時、水門のひらく音がした。続いて帆鳴りの音がした。
この夜月は出なかった。空も湖心も星ばかりであった。
と、太鼓の音がした。答えて法螺貝の高音がした。
それも途絶えた闇の湖を、駛る駛る船の帆が、夜の墨色に消されもせず、燃え立つばかりに赤いのは、纐纈布であるからであった。
第十四回
一
仮面の城主は陸へ上がり、船は後へ引っ返して行った。
富士の裾野は闇であった。星ばかりが空へ穴を穿けていた。その暗澹たる漆色の夜を、二つの焔が遠ざかって行った。一つは陸を行く仮面の城主の、身に纏っている袍であり、一つは帆船の帆であった。
纐纈布で製られた、帆と袍とは闇の中を、焔のように輝きながら、水と陸とに別れたのである。
故郷の土地を恋しがり、故郷の人を懐しがり、甲府を差して行くのであった。
だが、はたして故郷の人々は、彼を歓迎するだろうか? 彼は奔馬性癩患であった。「神聖な病気」の持ち主であった。
神聖とは「二つ無い」謂いであった。それは「無類」ということであった。神が「唯一」でなかったなら、決してそれは「神聖」