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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
家を見捨て、故郷を出で、どことも知らず彷徨うのであった。
と、鉦がチーンと鳴った。胸にかけた鉦であった。
それが家々に反響した。
どんよりと空は曇っていた。
と、また鉦がチーンと鳴った。
城下外れの街道を、ノロノロと行列は辿って行った。
犬が吠え、鶏が啼き、田家からは炊煙が立っていた。畑には菜の花が盛りこぼれていた。
行列の唄うご詠歌が、次第次第に遠ざかって行った。帰るあてのない旅であった。
ご詠歌の声は遠ざかって行った。
不安の一日が暮れた時、恐怖の夜が襲って来た。
夜の城下は陰森と寂れ、人っ子一人通ろうともしない。
深夜三更の鐘が鳴った。
その時、お厩の土塀の角へ、薄赤い光が茫っと射した。
次第に光は赤味を加え、やがて焔々たる火柱となった。土屋右衛門の屋敷の方へ、土塀に添いながら進んで行く。
依然無表情の少将の仮面が、火柱の上に載っかっていた。
信玄の居城、甲府の城下を、祝福しようそのために、仮面の城主が現われたのであった。
「なつかしい故郷! 恋しい甲府! 俺の祝福を受けてくれ!」
第十五回
一
「そんなに甲府はひどいのか。俺にとっちゃあ初耳だ」