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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
「だがお蔭で薬箱は、綺麗に形なしに破壊されてしまった。さて、弁償して貰うかな」
「おやこの爺途方もない、命を助けられて苦情かえ」どうやら卜伝は呆れたらしく、またもクックッと笑う声がした。
柳町通りの方角で、叫喚の声が湧き起った。
「ははあ今夜も出たらしい」
「おい蔵人、行ってみよう」
「そうさな、ポツポツ行ってみよう」
左典厩屋敷の土塀に添い、闇を縫って東の方へ、二人の者は小走って行った。
曽根下野守の屋敷の方から、真ん丸に塊った一団が、柳町通りの方へ押し出して来た。
鉄砲足軽の群であった。
粉のような火花がパッパッと、闇の空間で明滅するのは、火縄の口火が散るからであろう。
規律正しい武田家の、鉄砲足軽というにも似ず、足並みも揃えず伍も組まず、互いに体をくっ付け合わせ、おどおどしながら歩くのは、恐怖に蝕まれているからであった。
一度城下へ現われるや、悪病を振り蒔き人を殺し、信玄公をして門を閉めさせた、火柱の主というものが、彼ら足軽の輩にも神秘の物に思われた。
うっかりそんなものを撃ち取ろうものなら祟があるに相違ない。これが彼らの本心であった。
小路を抜けると柳町通りで、遥か北の方角から、叫喚の声が聞こえて来た。