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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
二
「どなたの嗜好にも合わないと見えるな」
「皆様、恐らしいと申されます」
「なに恐らしい?」と不思議そうに、「はて何が恐いのか?」
「そのお色気でございます」
「色気と云っても、紅いだけではないか」
「人間の血で染めたような、燃え立つばかりの紅い色が、恐らしいそうでございます」
「アッハッハッハッ、馬鹿な事を。さすがは女子、臆病なものだな」
もう一度布を差し上げて、月の光に照らして見たが、庄三郎は思わず身顫いをした。
二
と、布売りの老人はあるかなしかに嘲笑ったが、
「お侍様、あなたまでが……」
「何!」
と庄三郎は振り返る。
「顫えておいでなされます」
「痴けた事を!」
と一喝したが「これ、この価なんぼうじゃ?」
「太鼓判一枚でございます」
「それ持ってけ!」
と抛り出した。チリンと鳴る金の音。屈んで拾う布売りの姿があたかも大蜘蛛の這ったように、地面に影を描き出したが、さっと吹いて来た夜嵐に桜の花がサラサラと散り、その影をさえ埋めようとする。
こういうことのあったのは永禄元年のことであるが、この夜買った紅巾の祟りで、土屋庄三郎の身の上には幾多の波瀾が重畳した。
しかし作者はその事に関して描写の筆を進める前に、土屋庄三郎その人について少しく説明しようと思う。