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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
第四回
一
……すると、今度は大勢の男女が、声を合わせて歌うような幽幻な歌声が聞こえて来た。
「誰か大勢で歌っている」庄三郎は眠りながら夢の中で呟いた。
「ここはいったいどこだろう?」
ゴ――ンとまた鐘の音が虚空を渡って聞こえて来る。それにつづいて合唱の声が海の潮の騒ぐように、厳かに尊げに聞こえて来る。
ここはいったいどこだろう?
富士教団神秘境!
第四回
一
土屋右衛門はご前へ出ると恐る恐る言上した。
「土屋庄三郎事一昨夜家出致しましてござります」
「何?」
と信玄は頬をふくらませた。驚いた時の癖である。ただし滅多には驚かない。「庄三郎が家出したと? ふうむ、さようか。困った奴だ」
「困った馬鹿者にござります」
「理由は何かな? 家出した理由は?」
「それが一向解りませんので」
「何か不平でもあったのかな?」
「決して決してさような事は」
「で、見当は付いているのか?」
「は? 見当と仰せられますと?」
「逃げて行った見当よ」
「いえ、それが、どうも一向……」
「一向付いていないのか、お前も少し迂濶過ぎるの」
「赤面の至りにござります」
右衛門は額の汗を拭いた。信玄はそれをギロリと見たが、額に皺を寄せて黙り込んだ。