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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
人を怨む筋は一つもない。本来ならば、親の怨みを返す代りに、親の罪を身に引受けて、その償いをするのが人の子の本当の道だ」
「親分さん、私が悪うございました」
お照は袖を噛んで咽び入るのです。
「宇太八といっしょに房州の山の中へ帰るのがいい。お狩場の四郎の娘と知れては、江戸では住みにくかろう」
「ハイ」
「房州で暮しが立って行くのか」
「…………」
「可哀想に」
平次もつい、この貧しい純情な処女の、山の中に葬られるのがいじらしかったのです。
ガラッ八は大きな拳骨で、鼻の頭を横なぐりに撫であげました。
「親分、――私も我慢の角が折れました。この娘の先々の事は、及ばずながら、私が引受けて世話をしましょう」
六兵衛は静かに口を挟みました。
「いや、それはお照さんの本意ではあるまい。――桜屋の跡は、そこにいる兼松に継がせるがいい。亡くなった娘さんも喜ぶだろう。――お照さんは、私の女房に世話をさせよう、どうだ――」
静かにふり返る平次の側に、お照はシクシクと赤ん坊のように泣いておりました。他人から――いや敵と思った人間から、こんなに深切にされるとは想像もしたことはなかったのです。