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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
五
「…………」
黙って会釈するのを、
「今、いろいろ聴いていたんだが、もう一度お前の口から話しちゃくれまいか。菱屋のことや、金蔵の行方不明になった前後のことだよ」
平次は迎えるように訊ねました。が、清次郎の答えも、妹のお半と大方同じことで、なんの掴みどころもありません。ただこの二十二三の若い男から、平次は手堅さと生真面目さと、この上もない正直さを感じただけのことでした。
菱屋の没落から、主人の市兵衛や父親の清七の遠島については、ひどく心を痛めたらしく、それを深く訊ねるのさえ気の毒なぐらいです。お茂の自堕落な生活には愛想を尽かしている様子で、何を訊いても苦笑いするばかり。行方不明の金蔵とは、以前の手代仲間ながらあまり仲が良い方ではなく、幾ヶ月も逢ったことのないのを強調しております。
「金蔵とは近いところに住んでおりますから、まんざら顔を合せないこともありませんが、滅多に口をきいたこともない方です。性が合わなかったのですね」
清次郎はそう言って、淋しく笑うのです。金蔵とお茂が結びつくようになってから、ますます二人の心持が離れて行ったのでしょう。
五
この事件は思いの外奥行が深く、平次もたった一日ではどうすることもできませんでした。