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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
二
平次が気軽に乗出したのも無理のないことだったのです。
豊海橋を渡って南新堀へ入ると、鳶頭は三文字屋の方へは行かずに、四日市町から天神様へ行きます。
「道が違やしないかえ、鳶頭」
八五郎は先刻の啖呵の仕返しに、一本抗議を申込みました。
「三文字屋のお店は南新堀だが、大旦那は癇性で多勢人のいるところでは寝られないと言って、毎晩亥刻(十時)になると、霊岸島の隠居家へ引揚げて休みなさるんで」
「その隠居家に凄いのを囲ってあるという寸法かい」
と八五郎。
「とんでもない、三文字屋の大旦那と来た日にゃ、江戸一番の堅造だ。もっともとって六十三とか言ったが、――隠居家は下女のお作一人、雌猫も置かねえ」
「その下女が――」
「三十過ぎの出戻りで、稼いで溜めて、在所へ帰るより外に望みのねえ女だ」
そんな話をするうちに、三人は隠居所の前、なんとなく穏やかならぬ人立ちの中に立っておりました。
二
三文字屋の隠居所というのは、霊岸島町の裏におき忘れたように建てた、たった三間の家で、知らない者では、これが廻船問屋で万両分限の隠居所とは、気のつきようもないほど粗末なものでした。
「ああ、銭形の親分さん」