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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens

Aozora Bunko

八

八

一方は銭形平次と八五郎、赤羽橋有馬屋敷の角、お濠端の葭簀張の中に、辰刻(午前八時)過ぎから眼を光らせました。筑後国久留米二十一万石の大守有馬玄蕃頭上屋敷、三田通りの一角に水天宮を勧進し、正式に諸人の参詣を許したのはずっと後の寛政年間で、日本橋に移ったのは明治になってからですが、寛政以前にも、屋敷内の水天宮に、特志の者の参詣を許したことはあったのです。

浪五郎がお詣りした頃は、月の五日でも参詣の者はほんの数えるくらい、その中に船頭風の男が交っていさえすれば、平次と八五郎の眼を免れるはずはありません。

それから二た刻近いあいだ、平次と八五郎がどれほど気を揉んだことでしょう。

「八、あれだッ」

平次が濠端をやって来る、白髪頭の頑固そうな老人を見付けたのは、ちょうど三縁山の昼の鐘が鳴り納めた時でした。

「お前さんは、船頭の浪五郎というんだね」

「えッ」

八五郎に胸倉を掴まぬばかりにされて、老船頭はのけ反るばかりに驚きました。が、気を取直すと、

「いかにも、船頭の浪五郎はこの俺だ。さア、お縄を頂戴しよう。――身に覚えのないことだが、もう命が惜しいほどの年じゃない」