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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
五
いずれそのうちに礼に行くぜ」
「なんの、こんな事くらい」
平次はそれっきりこの事件との関係を断ったのです。恩人の子の島吉に手柄を立てさせて、蔭で知らぬ顔をして見ているのが、平次にとっては、たまらない楽しみだったのでしょう。
外へ出るともう夕刻、平次は昼飯を食い損ねたことに気が付きました。急に腹の減ったことに気が付くと、八五郎の強健な胃の腑が、今頃どんなことになっているかと思うと、独り笑いが空き腹からコミ上げて来ます。
五
それから二た月経ってしまいました。三文字屋殺しは養子の小三郎と決って、下手人を挙げた手柄はことごとく若い島吉に帰し、平次は組屋敷あたりの噂で、小三郎のお白洲の神妙さや、口書きも無事に済んで、処刑を待っているという話を聴いているだけのことでした。
「親分、大変なことがありましたよ」
ガラッ八の八五郎がいつもの調子とは違って、ひどく沈んだ顔を持って来ました。
それは三月三日――江戸は桃も桜も咲き揃って、すっかり春になりきった晩のことです。
「何が大変なんだ。ドブ板を蹴返さないと、大変らしい心持にならないぜ」
「ね、親分。あの三文字屋の娘――お美乃とかいうのが、南の御奉行所へ駆け込み訴えをやりましたぜ」