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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
七
替玉の秘密を知っているのは、家中でもお桃の外にはないのです。
十六夜の月は少し遅く、四方がすっかり夜の風情になったのは、亥刻(十時)近くなってからでした。縁側の戸を全部閉めさせて、欄間から入る月の光を頼りに、囲いの中で平次と八五郎は顔を見合せました。眉毛の数まで読めそうです。
「親分」
「八」
「こんな事では、人相まで判りますね」
「その上ゆうべは十五夜で宵のうちは昼のように明るい月夜だった」
「それでも親分」
フェミニストの八五郎は、お桃を助けることの方が、下手人を縛るより重要な仕事になっているのでした。
「これくらいの明りなら、家の者が梅吉と幾太郎を間違えるはずはない――梅吉と知って殺したのだ」
「親分、そんな意地の悪いことを言っちゃいけませんよ」
「意地が悪いわけじゃない。幾太郎もお仲も、内儀も、三郎兵衛も、お栄も下手人でないと決ると、こいつは厄介なことになるぜ、八」
平次の声には妙に厳しいところがあります。
七
「脇差はいったい誰のだい」
平次は今頃そんな事を聴くほど、得物を問題にはしていなかったのです。
「納戸の箪笥のですよ。そこに入っていることは、誰だって知っていまさア」