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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十一)懐ろ鏡 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 141,130 characters · 288 screens
次に逢ったのは、三郎兵衛の後添いのお篠、これが奈良屋の内儀かしらと最初は平次も驚いたほどです。三郎兵衛は五十七八とすれば、どうしても二十五六も年齢が違うでしょう。せいぜい三十一二、どうかしたら、もう二つ三つ上かも知れませんが、非凡の美しさは年齢を超越して、ひょっと見ると、二十五六としか見えません。
「御苦労様でございます」
お篠は慇懃に挨拶しました。お茶や礼式の嗜みがありそうで、なんとなく御守殿風が匂います。
「御新造さんは、お屋敷奉公をしたことがあるんでしょうな」
平次の問いは少し無作法で唐突でした。
「え」
お篠は心持鼻白みます。
「それじゃ、ヤットウの方の心得もあるんでしょうね」
「いえ、――ほんの少し長刀を仕込まれましたけれど」
お篠は本当に消えも入りたい姿でした。青々とした眉の跡、頬の美しい曲線、襟元の涼しさ、――平次もこんな女は、舞台でしか見たことのないような心持がするのでした。
「この櫛は誰のでしょう」
平次の掌の上には、半分紙につつんだ黄楊の櫛がありました。
「私のですが――」
何という穏やかな調子でしょう。
「この櫛が、死骸の側にあったのですよ、御新造」