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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十)金色の処女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十)金色の処女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 137,868 characters · 278 screens
「上様だッ」
平次はヒョイと首を引きました。と同時に小夜が捧げた薬湯の茶碗が見えます。
やがて家光は薬湯を手に取り上げた様子、それと同時に平次の眼には、もう一つ動くものが映ります。それは障子の外に、物の隈のように踞った総髪の中老人、霰小紋の裃を着て、折目正しく両手をついておりますが、前夜怪奇な行法を修した、この薬園の預り主、峠宗寿軒に違いありません。
家光が茶碗を取り上げて、唇まで持って行くと、宗寿軒の唇が歪んで、障子を射通すような瞳が、キラリと光ります。
「あッ、毒湯だッ」
捕物の名人、銭形平次には、外の人にない第六感が働きます。前後の事情から考え合せてみると、家光の手に持っている茶碗の中に、真面な薬湯が入っているわけはありません。
笹野の旦那がくれぐれも頼んだのは、これだッ。
平次はいきなり廂から飛出そうとしましたが、たかが岡っ引、将軍様の前へ飛出せるわけもなく、大きい声を出そうにも、その辺の物々しいたたずまいを見ると、うっかり騒ぎを大きくして、相手に捨鉢に出られると、かえって恐ろしい事になりそうです。それに毒湯と思うのは、平次の単なる疑いで、実は本当の薬湯を勧めているのかもわからないのです。