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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十)金色の処女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十)金色の処女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 137,868 characters · 278 screens
三
目白坂の降口に、紺暖簾を深々と掛け連ねて、近頃出来ながら、当時江戸中に響いた「唐花屋」という化粧品屋、何の気もなく表へ出した金看板を読むと、一枚は「――おん薬園へちまの水――」、次のは「――南蛮秘法、おん白粉――」、そして更にもう一枚には「――峠流秘薬色々――」とあります。
「これだッ」
平次は思わず顎を引きました。
三
「お静坊居るか」
「あら親分」
その頃東西の両国に軒を並べた水茶屋の一つを覗いて、平次はこう声を掛けました。
「よう、相変らず美しいネ、罪だぜ、お静坊」
「あら親分、そんな事を言うなら、私は嫌」
「どっこい、謝った。逃げちゃいけねえ、今日は大真面目に頼み事があるんだ。静ちゃんは、近頃評判の音羽の唐花屋へ買物に行った覚えはないか」
「いいえ、朋輩衆で唐花屋へ行かない人はないほどだけれど、私はまだ行ったことはありません」
「そうだろうねえ、お前ほどの容貌じゃ、へちまの水にも南蛮渡来の白粉にも及ぶめえ」
「あれ、親分さん」
なるほどこれは美しい容貌です。せいぜい十七八、血色の鮮やかな瓜実顔に、愛嬌がこぼれるばかり。襟の掛った木綿物に、赤前垂こそしめておりますが、商売柄に似ず固いが評判で、枝から取り立ての果物のような清純な感じのする娘でした。