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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十)金色の処女

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十)金色の処女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 137,868 characters · 278 screens

Aozora Bunko

八

ハッと気が付いて腹巻を探ると、折悪しく鍋銭はありませんが、小粒が二つ三つと、それに柄にもなく小判が一枚あります。その頃の小判は大変な値打で、岡っ引などにとっては一と身代ですが、一昨日笹野新三郎から用意のために手渡された金、将軍様の命に関わろうという場合ですから、物惜しみなどをしている時ではありません。

いきなり小判を右手の拇指と食指との間に立てて、小口を唾で濡らすと、銭形の平次得意の投げ銭、山吹色の小判は風を切って、五六間先の家光の手にある茶碗の糸底に発矢と当ります。薬湯は飛散って、結構な座布団も畳も滅茶滅茶。

「…………」

家光は動ずる風もなく、面をあげて小判の飛んで来た方を屹と見やります。

「あッ」

驚いたのはお小夜、起ち上がると、いそいそと近寄って、薬湯に濡れた家光の膝へ、身体と一緒に、総縫い松竹梅の小袖を、サッと掛けました。

八

「これ、何をする――」

あわてて居住いを直す家光の膝を追うように、お小夜は袖の上へ顔を伏せました。

次の瞬間には、

「贋者ッ」

と弾き上げられたように起ち上がります。

「漸く気が付いたか」

「エッ、口惜しい、お前は誰だえ」

飛退く女の帯際を猿臂を延してむんずと掴んだ偽家光。