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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十)金色の処女
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十)金色の処女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 137,868 characters · 278 screens
銭形平次捕物控
一
一
伽羅大尽磯屋貫兵衛の涼み船は、隅田川を漕ぎ上って、白鬚の少し上、川幅の広いところを選って、中流に碇をおろしました。わざと気取った小型の屋形船の中は、念入りに酒が廻って、この時もうハチ切れそうな騒ぎです。
「さア、皆んな見てくれ、こいつは七平の一世一代だ――おりん姐さん、鳴物を頼むぜ」
笑い上戸の七平は、尻を端折ると、手拭をすっとこ冠りに四十男の恥も外聞もなく踊り狂うのでした。
取巻の清五郎は、芸者のお袖を相手に、引っきりなしに拳を打っておりました。貫兵衛の義弟で一番若い菊次郎は、それを面白いような苦々しいような、形容のしようのない顔をして眺めております。
伽羅大尽の貫兵衛は、薄菊石の醜い顔を歪めて、腹の底から一座の空気を享楽している様子でした。三十五という、脂の乗り切った男盛りを、親譲りの金がありすぎて、呉服太物問屋の商売にも身が入らず、取巻末社を引きつれて、江戸中の盛り場を、この十年間飽きもせずに押し廻っている典型的なお大尽です。
「卯八、あの酒を持って来い」
大尽の貫兵衛が手を挙げると、
「ヘエ――」
爺やの卯八――その夜のお燗番――は、その頃はとびきり珍しかったギヤマンの徳利を捧げて艫から現われました。