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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十)金色の処女

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十)金色の処女 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 137,868 characters · 278 screens

Aozora Bunko

三

「お前はどこへ行くんだ」

「近頃は三味線堀に居ますよ、奉公は止して、母親と一緒に」

「それじゃ気を付けて行きねエ、一人で淋しくはないのか」

「江戸の真ん中ですもの」

「江戸の真ん中だからな」

「ホ、ホ」

お篠は面白そうに笑うのです。男が淋しがらないものを、女が淋しがっていいものですか――といった気でしょう。

「あばよ、お篠」

「あ、ちょいと、八五郎親分」

「何だい」

「怒っちゃ嫌よ、親分、――これはほんの私のお礼心、取って下さるわねエ」

お篠は八五郎に寄り添うように、紙に包んだものを、そっとその袂に落し込むのです。

「何をするんだ」

あわてて取出すと、紙が破れて、落ち散る小判が三枚――五枚。

「あれ、八五郎親分」

「冗談じゃねエ」

八五郎は手に残る小判を汚いもののように叩き付けると、怫然として背を見せました。

「まア、親分」

お篠はこの世の奇蹟を見るような心持で、立ちつくしました。長い間水茶屋に奉公して、張りも意気地も心得たつもりのお篠ですが、安岡っ引が袖の下を取らないなんぞということは、想像してみたこともなかったのです。

三

山名屋五左衛門はその晩殺されたのです。

離屋の一と間で、誰とも知れぬ者の手で、胸を一とえぐり、声も立てずに死んだのでしょう。