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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

折弓や血刀を杖に、血と泥にまみれた虫の息で、這うが如く、引揚げて来た味方の者たちから報じられたのであった。

「騒いではなりません」

正儀の制止にも余って、城郭内の躁ぎがしずまらないので、明け方には、遂に、兵の屯にはめったに姿を見せたことのない久子自身が出て行って、何かの指揮や処置に、正儀を励ましている様子であった。

出てゆく折、末子の朝成が、眼をさまして、母の姿を追いかけたので、

「小綱、和子を見ていて賜も」

傅役の小冠者にあずけて行った。

「和子様、和子様、さ、狩衣を召しませ。おかぜをひきますぞ。そして小綱と、きょうも竹山へ攀じて、遊びましょう。よい竹伐って、竹馬を作りましょう」

あやしすかしながら、狩衣を着せて、蔀の縁から降りかけた時だった。

「小四郎っ」

ふいに、物陰から躍り出て、漆間蔵六が前に立った。

「あっ、父上」

愕然と、立ち竦む子の処へとびかかって、蔵六は、彼を大地へ組み伏せた。

「お、おっ、おのれは」

骨肉への憤りは、自分が自分へ怒るように残酷の度も見失って、ぐいぐい喉をしめつけていた。けれど云わんとすることは、感情の火に、口ばかり渇いて出ないのである。