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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
「あなた様が」
「ばかっ。――疾く、帰れっ」
三
物蔭に聞いていた家臣は胆を冷やした。簾の蔭に案じていた静もハッとした。情熱の病人は、遂に、烈火のかたまりを、景季へ吐きつけてしまった。
こんな結果になるなら、むしろ仮病と取られても、使者の景季にお会いさせなかったほうがましであったものをと、家臣たちは悔いたが、及ばなかった。憤然と立帰った景季は、即日、六条油小路の旅舎を引払って、鎌倉へ急ぎ帰って行ったという。
「さばさばした。これで、一夕立そそいで来れば、なお、清々しかろう。――静、雑色に命じて、庭木へ水を打たせい。灯ともしたらまた、そなたの鼓など聞こうほどに」
義経は、夕迫る縁に立って、崩れる雲の峰を見ていた。
「はい」
彼の妻は、まだ十九だった。
十五、神泉殿の舞楽の日に、初めて義経に想われた。恋を知った十六の春と共に、眉を改めて、白拍子の群れから去り、その細い腕で養って来た母の磯の禅師と一緒に、この館へ移った静であった。
晴れがましく輿入れした妻ではない。それだけに、妻たる女の真実を、彼女は、良人へも召使にも、無言の真心で示して来た。よしや鎌倉にある良人の兄君からは、まだ一片の便りにも「弟の妻」