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けんのよんくんし
剣の四君子・日本名婦伝
吉川 英治
Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens
そして、粛然と、塵も散らさず、都を後に去った。
――が、摂津、兵庫あたりには、早くも頼朝の軍令がまわっていた。諸国の地頭は、義経を討って、鎌倉殿の感賞にあずかろうものと争った。
行路の難は、そればかりでなかった。大物の浦から船に乗りこんだ夜、暴風に襲われて、船は難破してしまった。郎党の多くは溺死し、義経は、壊れた船を引っ返したが、陸にはまた、執こい敵が猛襲してきた。かくて味方とも散々にわかれて後、義経の足跡は、四天王寺までは見た者もあるが、そこを立退いた先は、まったく踪跡を晦ましてしまった。
伊豆左衛門有綱と、堀弥太郎景光という武士二人。
それと、妻の静に、妻の母の磯の禅師と、わずか四人を連れたきりであったと、四天王寺の僧は、後で、取調べをうけた鎌倉の武士へ語った。
八
彼は奈良に潜んでいる――という噂があるかと思うと、
(いや、多武の峰で、それらしい落人を見た)
とも聞え、
(十津川の筋へ逃げた)
とか、その他、紀州だ、いや、京都の中に潜伏しているのと、彼の足跡を繞って、神出鬼没なうわさばかり乱れ飛んだ。
鎌倉勢は、その詮議に、手をやいた。翻弄されているようだった。