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けんのよんくんし

剣の四君子・日本名婦伝

吉川 英治

Read 剣の四君子・日本名婦伝 (けんのよんくんし) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 150,635 characters · 306 screens

Aozora Bunko

「静っ。――こらっ静っ。……義経はどこへ落ちた。申さぬと、先ず見せしめに、その老いぼれの首から斬り離すぞ」

「知りません。……良人の行先は、何も聞いておりません」

「うぬっ」

雪まみれの土足を上げて、一人が蹴とばそうとすると、

「まあ待て、そう怯えさせては、口もきけまい」

と、他の武者が押し止めて、宥め賺しながら訊問した。

「これまでは、良人と共に、辛くも辿って参りましたが、深山の雪、母の持病、足手まといと思し召してか、この蔵王堂に四、五日いよ、やがて馬を送りて、迎えをよこすまで――と申されまして、良人とここで別れたまま、先のお行方は存じませぬ」

静のことばは明晰であった。その落着いた様を見すえて、

「嘘でもないらしい」

と、武者たちは、麓の北条時政へ、使いを馳せて、処置の命を待った。

馬の鞍に縛りつけて、すぐ鎌倉へ追い下せとあった。静は、武者の手に引っ立てられる母へ、自分の上着を脱いで老いの肩をつつみ、その耳もとへ、熱い息して囁いた。

「ゆるして下さい。不孝をおゆるし下さいませ。わたくしが、世の常の白拍子のように、判官様へ無情くあれば、年老いたあなたに、こんな艱苦はおかけしないでもよいのに……私の婦道のために……お母様までを、憂目に追いやって」