Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
おおおかえちぜん
大岡越前
吉川 英治
Read 大岡越前 (おおおかえちぜん) by 吉川 英治 (よしかわえいじ) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 218,436 characters · 437 screens
越前守も、さすがに、その眼にたいし、一瞬、自分がいかなる人間として対すべきかをふと忘れかけた。満身に呼び起される人間当然な凡情をどうしようもなかった。
「な、なんですか。顔を上げたじゃありませんか。私にも、いい分がたくさんあるんですからね。……さっさと、訊くことがあるなら、訊いて下さいよ」
次に、いい出したのは、お袖の方からであった。きょうのお袖は、わずかな間の沈黙にも耐えないほど、瞼も耳も、充血していた。
「なんですえ! こんな仰山な白洲へ私を曳き出しても、私を見たら、何もいえないのじゃないか。……いえなければ、私からいってあげよう。市十郎さん、覚悟だろうね」
「袖。ここは裁きの庭だぞ。わたくし事をいう所ではない。この身も、むかしの市十郎でもなければ、越前守個人でもなく、天下の眼の中に公儀の信任を負うて、一奉行としてそちを取調べるのじゃ。ただ此方の問いに答えればよい」
「ホホホホ。人をばかにおしでない。だれがお前なぞの調べをうけるものですかえ。何も知らぬ世間の衆は、お奉行さまと恐れ入るかしらないけれど、お袖は、そんな手には乗りませんとさ」
「だまれっ。