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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
とはいえ、それらの冷静の中には、殺人鬼の持つ惨酷味などは、一点といえども含まれてはいず、むしろそこには科学者だけが持つ、学究的冷酷というようなものが、多分に含まれているのであった。
部屋の片隅に設けられてある、大形の湯槽の栓を抜き、そこから迸り出た温湯で、次々に手を洗った三人は、無造作に犠牲者へ白布を掛けると、何んの変事もなかったように、黒い垂れ布を押し分けて、揃って後房へはいって行った。
黒の垂れ布を一つ隔てた、ここ、後房の有様は、陰惨たる前房とは似ても似つかぬ、愉快な華美なものであった。ただし天井の高いのと、床が滑石で張られてあるのとは、前房と変りがなかったが、不気味な火炉も解剖台も、鋭利な器具を立て並べた、小さな卓も置いてはない。
まず中央に紫檀細工の丸型のテーブルが据えてあり、それを取り巻いて二脚の牀几と、深張りの一脚の肘掛椅子と、そうしてこれも深張りの長い寝椅子とが置いてあったが、肘掛椅子と寝椅子とに、打ちかけられた豹の皮は、日本産とは思われなかった。
肘掛椅子に腰掛けているのは、解剖のメスを揮ったところの、例の威厳のある老人であったが、他ならぬ直江蔵人で、その彼の背後にあたり、それこそ天井に届きそうな、巨大などっしりとした書棚があったが、積み重ねられた書籍の多くは、見慣れない南蛮の書であっ