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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
どうするのだ」
「叱」
と老人は眼で叱り、「経帷子がお通りになる。そうだ血染めの経帷子がな。声を立てて見付けられたら私もそなたも命がない。黙って黙って」
と囁くのである。
チャンチャンチャンチャンと互いに触れ合う甲冑物具鐙の音がその間も次第に近寄って来た。
遠寄せかそれとも武者押しか? 何者がどこへ行くのであろう? ――不審に思いながら庄三郎は老人の側へ蹲居り、山査子の藪の隙間からじっと向こうをすかして見た。眼路の限りは広々とした夏の最中の裾野原で、覗いている庄三郎の鼻先から丸くなだらかに延びている。
野の涯に雲が浮かんでいる。真昼の日光に裏漉しされたのか絹のように輝いて見える。野面は寂しく人気なく、落葉松、山榛の混合林が諸所に飛び飛びに立っているのが老人の歯が抜けたようだ。毒卯木の花が生白く咲き山葡萄の蔓が縦横に延び、雪崩の跡が断層を作し赤茶けた地肌を現わしているのが、荒涼たる光景を二倍にする。
老人は側で顫えていた。そうして右手を指差した。そっち――から騎馬武士は来るらしい。砂煙が濛々と上がっている。と、砂煙は竜巻のように虚空に渦を巻きながらドンドンこっちへやって来たが、近付くままによく見れば砂煙ばかりが壁のように一町余も立ち続いているが人の姿はどこにも見えない。