Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

しんしゅうこうけつじょう

神州纐纈城

国枝 史郎

Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens

Aozora Bunko

はたして彼は眠られるだろうか?

彼といえども人間であった。睡眠はとらなければならないだろう。しかし眠りは円ではあるまい。だが彼は疲労れていた。間もなく眠りに入ったらしい。

それは奇怪な絵であった。――神代桜の枝垂れた枝々には、盛り切れないほど花が着いていた。そうしてその花は老いていた。で絶えず繽紛と散った。仮面の上へ落ちるのもあり、袍の上へ落ちるのもあり、手足の上へ落ちるのもあり、落花は彼を埋めようとした。

春昼の陽は暖かかった。花を蒸し人を蒸し、大地を蒸し草を蒸した。その大地からは陽炎が立ち、空の方へと上って行った。

花を洩れ枝を洩れ、新酒の色をした日の光は、仮面の城主の仮面の上へも、その体へも斑点をつけた。

彼は眠りに落ちていた。しかし仮面は眠っていない。表情のない魚形の眼は、表情のないままに見開かれていた。表情のないその唇は、表情のないままに開いていた。

四辺は明るくて華やかで、万物が生々と呼吸づいていた。

蕗の薹は土を破り、紫の菫は匂いを発し、蒲公英の花は手を開き、桜草は蜂を呼んでいた。

あらゆる種類の春の花を、受胎に誘う微風は、花から花へ渡っていた。