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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
永久閉じられない眼であった。下瞼がムクレ返り、毛細血管がふくれ上がり、あたかも赤い絹糸のようであった。だが視力は持っていた。しかし瞳は開いていた。そうして白眼は血で充たされ、炭火のように熾っていた。口は斜に釣り上がり、夜具の裾のようにふくれ上がっていた。そうしてその色は鉛色であった。ダラダラ涎が流れ落ちた。耳の附け根から頸へかけ、水腫がギッシリ出来ていた。膿ではない「神聖な液」だ! それが水腫から流れ出していた。
十本の指が鉤のように曲がり、十個の爪は跡さえなかった。みんな抜け落ちたのである。手にも足にも水腫があった。
見る見るうちに眉が脹れた。そうして獅子顔を現じ出した。ポロリと小指が一本取れた。
だが彼女は死んだのではなかった。意識は非常に明晰なのであった。しかし全身は麻痺していた。
彼女は「ヒーッ」と悲鳴を上げた。神経痛が襲ったからである。
三年五年ないしは十年、さらに長きは二三十年の間に、徐々として行われる腐肉作用が、一瞬の間に行われたのであった。奔馬性癩患の性質であった。
彼女はもはや花嫁ではなかった。恋婿を棄てなければならなかった。家を棄てなければならなかった。