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しんしゅうこうけつじょう
神州纐纈城
国枝 史郎
Read 神州纐纈城 (しんしゅうこうけつじょう) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 188,242 characters · 380 screens
信玄の大きな影法師が、床の間の壁でユラユラと揺れた。
戸外を春風が渡るのだろう。
にわかに信玄が驚いたように云った。
「道鬼が見えぬ、道鬼はどうした?」
「は、山本道鬼殿は、お屋敷においででございます」
小姓の真田源五郎が云った。
「これは呆れた、どうしたと云うのだ。これほどの大事な評定に、道鬼が不参しようとは。源五郎迎えに行って来い」
「いや」と云ったのは譜代の筆頭、馬場美濃守信勝であった。
「道鬼殿は参りますまい」
「何故だ※(感嘆符疑問符、1-8-78)」と信玄は眼を見張った。
「いつも同じような無駄評定、参ったところで仕方がない。道鬼殿はかよう申されました」
「なに、無駄評定だと? 不届き千万!」信玄の眉はキリキリと上がった。常時は垂れている八字眉が、にわかに尾端を上げたのであった。
「実は私も道鬼殿の、そのお言葉には賛成なので」美濃守は平然と云い切った。
「ふうむ、お前も賛成か。無駄評定と思うのか」信玄は厭な顔をした。
「まずさようでございます。奔馬性癩患は不可抗力、患者を捉えて隔離する以外、他に手段はございません。それより国境に押し逼った上杉、北条の軍勢を打ち破らなければなりますまい。