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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Read 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 191,184 characters · 379 screens
「いつお立ちにござりまするか?」
ややあって卒然と貝十郎は訊いた。
「いつこの地をお立ちにござりまするか?」
「さあ……わからぬ……決めていない」
冬次郎は少しうるさそうにいった。
「それがどうお前にかかわりがあるのか?」
しかし貝十郎はそれには答えず、
「どちらへお越しにござりまするか?」
「信濃一円見て廻るつもりじゃ」
「佐久の方へもおいででござりましょうな」
「参る。あそこが眼目じゃ」
「さてこそ!」
と貝十郎は唸るようにいった。
いって冬次郎を睨むように見た。
「さてこそ? ……何んだ? ……貝十郎? ……佐久へ行くのがなぜさてこそじゃ?」
「浅間の山がござります」
「一昨年爆発し、農民に大災害を与えたはずじゃ。その後の農村を見ようと思って、わしは出かけて行くのじゃよ」
「浅間山麓に田沼様の、山屋敷があるはずにござります」
「そんな噂を聞いておる。あの辺は本来遠江守様の領地、それを柳営禁猟地の、多摩川附近に逃げ水屋敷を造った、その手であの地に山屋敷を作り、時々参るということじゃ。……が、それが何んとしたかな」
「は」
といったが貝十郎は、またもここでいい淀んだ。
と、不意に手を仕えた。