Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Read 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 191,184 characters · 379 screens
塩尻の巻
一
無言ではあったが首を振り、合わせた両袖で胸を抑え、お浦は貝十郎をただに見詰めた。
当惑と不安と恐怖とが、そのお浦の眼にあった。
しかも断じて貝十郎の言葉に、従うまいという決心が、その同じ眼にあった。
塩尻の巻
一
――これをお前から越中へ――定信の手へ渡してくれ。……妾から渡すのでござりますのね。
こうお浦はいいながら、大切そうに自分の懐中を、両手で抑える癖のついたのは、逃げ水屋敷の騒動以来であった。懐中の中に大切な物を、秘蔵しているとしか思われない。
(あの夜お浦は将軍家に逢った。そうしてお命をお助けした。その際何か大切なものを、お浦は将軍家から預かったらしい)
そう貝十郎は直感した。
(松平越中守定信侯、これは田沼様の正面の敵だ。このお方へ将軍家から渡そうという品、田沼様にとって不利の品であること、もういわずと知れている)
で彼としてはどうあろうと、その品を手に入れたく思うのであった。
瞞しつ賺しつお浦を説いて、その品物を渡させようとした。今はすっかり貝十郎になつき、兄かのように思っているらしい。そういうお浦ではあったけれど、その品ばかりは頑強に断わり手渡そうとはしなかった。