Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Read 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 191,184 characters · 379 screens
誰かがこれを弾いていたのだ。……そうだお吉でなかったにしても。……河東節の水調子、玉菊を誰かが弾いていたのだ)
昔恋しい心持ちが、九十郎の心へ湧いて来た。
(下谷の裏町のあの家へ、お吉を囲って住んでいた頃が、せめてもの俺の全盛時代だった。……老中田沼様の家人だったからなア)
三味線の前へ坐りこみ、三味線を膝へ抱えこんだ。
(よく玉菊を弾いたっけ。……お吉お吉どうなったことか? ……思い出せば懐かしい。……お吉お吉どこにいる?)
恍惚となって眼を閉じた。
(悪い女ではなかったっけ。……俺には随分つくしてくれたものだ。……私娼にまでも身を落として。……それだのに俺は愛想づかしをいって。……帰って来てくれ! お吉お吉!)
思慕に堪えない彼であった。
その隙だらけの彼を狙って、刀を振り冠った服部織江が、刻み足をしてソロソロと、彼の背後から寄って来た。
十七
左の外れの廃屋の裏口、そこまで辿って来た範之丞とお吉は、人気ないのを確かめて、家の中へ忍び込んだ。
(これからどうしたものだろう?)
これが二人の心持ちであった。
気味の悪い車塚、いっそ身すてて他所へ行こうか?