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ちけむりてんめいじん
血煙天明陣
国枝 史郎
Read 血煙天明陣 (ちけむりてんめいじん) by 国枝 史郎 (くにえだしろう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 191,184 characters · 379 screens
(はてな、あの女には見覚えがある。……臼杵九十郎の妾のお吉だ)
こう思ったとたん佐久の車塚で、そのお吉をはじめとし、九十郎や服部範之丞や、その妹の織江などの姿を、見かけたことを思い出した。
(混乱にまぎれ遮られ、一人のこらず見遁がしてしまったが、その後お吉め江戸へ入り、あんなものに零落したものと見える)
つづいて忽然と思い出されたのは、九十郎のためにままごと狂女のお浦を、奪い去られたことであった。
(しめた、お吉は九十郎の妾、あいつの後を尾行けて行ったなら、九十郎の在所知れるかもしれぬ。……つきとめてお浦を取り返してやろう)
門附けの女は歩き出した。
その後をつけて貝十郎も歩いた。
女はやはりお吉であった。
恋しい範之丞の屋敷の前で、いつものように一節弾き、それをせめてもの慰みとして、しおしおと歩いて行くのであった。
二
かりにも自分の昔の旦那、九十郎を親の敵と狙う、範之丞とたとえ知らなかったとはいえ、ちぎりを交わしたということは、お吉にとっては苦痛であった。ほとんど純情の娘心、それに返っている彼女だけに、一方九十郎に対しても、他方範之丞に対しても、申し訳なく思われるのであった。